
アスベストがもたらす問題、被害の特徴はまず第1 に「終わらない災害」であることです。
すでに日本の労災のなかで一番の被害の大きさとなっています。
しかし実際にはその10 倍の被害があると考えられています。
とくに環境ばく露による被害は殆どが顧みられていないと言ってもよいぐらいの状況です。
そして日本の現在のアスベスト被害をなくす規制は世界の流れから取り残されています。

「終わりなき災害」という言葉は、日本の公害研究の第一人者、宮本憲一氏が明らかにしたことです。
現在も続く日本の公害として、福島第一原発事故による被害、確認後68 年経過しても今なお新しい患者が見つかり解決しない水俣病被害。
これらとならんで、アスベストによる被害を「終わりなき被害」と位置づけています。

アスベストによる被害は、「ストック型(蓄積型)災害」といちづけています。
それは、1000 万トン輸入・利用されたアスベストの8割以上が建材に使われ、その大半が今も建物に残っています。
現在も、これからも、建物の利用するなかで、建物の改修でも、解体でも、除去、廃棄の過程で被害が起こります。
地震・台風の巨大化など自然災害と結びついて被害が発生します。

ほとんどがアスベストに由来するがんである中皮腫による死亡者数はどんどん増え続けます。
左のグラフはグレイがイギリスのアスベスト輸入量(折れ線グラフ)と中皮腫死亡者(棒グラフ)。
オレンジ色が日本の輸入量と中皮腫死亡数です。
日本は少し遅れて、イギリスの倍ほどの輸入量があり、死亡者数はイギリスを追い抜いてずっと増えていくだろうと考えられています。
しかもイギリスは世界でもすすんだアスベスト被害防止の対策を講じて、いまやっと死亡者数が減り始めているのですが、にほんの対策は世界から「周回遅れ」と言われていて、これからの被害の拡大が本当に心配です。

さて、ところで労災死亡件数。左のグラフは厚生労働省が発表したものです。
転落事故、交通事故、挟まれ事故などと続きますが、どういうわけかアスベスト関連疾患による労災の死亡補償を受けた人の数字が含まれていません。

アスベスト関連の労災死亡は別統計にしています。
左は、その厚労省の労災死亡の経年変化を棒グラフであらわしたものに、別統計のアスベスト関連労災死亡件数を、折れ線グラフで書き加えたものです。
アスベスト労災死亡数は、その他の労災死亡数の合計とほぼ同数。つまり、日本の労災死亡の半数近くがアスベストによるものであることがわかります。
155ヶ国の大学や研究機関が参加する「世界疾病負荷研究」という研究があります。
世界各国のアスベスト疾患など労働起因や環境起因の疾病の研究をしています。

その報告のなかで、アスベストによる疾患のうち、肺がんは労災で認定されている人数の、実際には10倍ほどの患者がいると推計しています。
それは、中皮腫はアスベストによるとわかっても、肺がんの原因を追究する医師や医療機関がごく少数であるからです。
肺がんの2 割程度がアスベストによるものという研究もありますが、労働災害として位置付けられるケースが1/10 程度なのです。

また、労働起因以外のアスベスト疾患、環境ばく露によるアスベスト疾患が、「石綿救済法」による救済金支給のなかで、33.4%を占めています。
環境ばく露の場合の救済法の認定を受けるのは労災よりも難しい認定基準をパスした場合のみです。
実際にはもっと多数の環境ばく露によるアスベスト疾患があり、それらは見逃されているのです。

大阪はアスベスト被害者が一番多いです。
これは、中皮腫死亡数の都道府県別の集計をみたもの。
兵庫県もおおく関西のアスベスト被害の深刻さを示しています。

アスベストによる被害をなくすためには何が必要か。
① 今たたかわれている建設アスベスト訴訟で国と建材メーカーの責任を明確する。
② 世界の流れから「周回遅れ」と言われる日本のアスベスト規制を変える。
③ 自治体のアスベスト対策のレベルアップを図る。
④ 市民自身がアスベストの知識を身につける
これらが柱であると考えています。

実際の活動では、建設アスベスト訴訟の支援。
被害者の救済支援活動。
健康相談や、解体除去工事などの相談活動。
自治体と協力して被害をなくす活動。
市民への啓もう活動。
ボランティアのアスベスト調査活動などの活動が必要です。
これらが大阪アスベスト対策センター(ACCO)の活動です。



例えば教職員は、2006 年から18年の間に554人の方が、「石綿救済法」の認定を受けています。
ヨーロッパでは教職員は、アスベスト被害の危険職種と位置づけられています。
教職員組合などの組織にとって、アスベスト被害をなくす活動は重要な活動になると考えられます。

アスベスト建材が使われている建物で働いただけでアスベスト疾患に罹患して、労働災害の認定を受けた人が180人。
ここには公務災害(公務員の労災)を受けた人は含まれていません。
公共の建物こそ、アスベスト含有建材が大量に使われてきました。公務員の皆さん方も要注意職種であると言えます。